2013年8月からエリート強化指定選手となり、東京2020オリンピックでも活躍したHPCJCの中距離アカデミーチームメンバーの中村妃智選手が、今月をもって競技から引退することとなりました。
中村選手はHPCJCが今の形になる前からナショナルチームの一員で、山あり谷ありだったHPCJCの中距離チームを引っ張ってくれてきた選手。その中村選手へのリスペクトと感謝の気持ちを込めて、中村選手のここまでの自転車人生とHPCJCとの関わりを伺ったインタビューを全5回でお届けします。
第1回 : 幼稚園の時の夢がオリンピック選手だったことが発覚!
第2回 : 周りの人には恵まれてきたなと思います。
第3回 : 前日は瞑想を聞きながら寝るのがルーティン。
第4回 : HPCJCができてラスト2年で一気に加速した。
第5回 : 今は自分が3人ぐらいほしい。
第4回:HPCJCができてラスト2年で一気に加速した。
Q:HPCJCのことをちょっとお伺いしますね。妃智さんはHPCJCができる前とできてからと、両方の期間に日本代表にいらっしゃった方じゃないですか?その前後の違いを感じられることがあるかなと思うんですけど、具体的に言うと、どういうところでその違いを感じられますか?
リオ・オリンピックを目指している時もナショナルチームの合宿がありましたが、月に5日程度しか活動時間なかったんです。当時のコーチももっとトレーニングをやりたいと思ってらっしゃったんだと思うんですけど、十分な予算がない中で、理想のトレーニング環境を創るのはなかなか厳しい状況だったと思います。リオが終わって、東京オリンピックに向けての強化が決まるまでは、HPCJCもないですし、予算があるわけではなかったと思うので、特に中距離はなんとかつなぎみたいな感じでやっていましたね。
Q:HPCJCはリソースの関係で、まず短距離の強化から始めましたもんね。
そうですね。短距離はすでに始動していて、長距離はつなげるような形で活動していて。その後、中距離も動き始めて、強化がいよいよ始まると思ったのは海外のコーチが来た時ですかね。そこからは月に5日間とかじゃなくて、伊豆に住むような形でほぼ毎日活動できるようになって。以前は漠然と練習するだけだったんですけど、HPCJCが確立してからは、トレーニングだけでなく、血液検査も含めて、ケアを定期的に受けられたり、栄養の管理をしてもらったり。良い意味で、自分で何も考えなくても与えてもらえるので、その通りには活動していけばパフォーマンスが上がるようになりました。
Q:HPCJCができる前までは、何でも自分で全部やんなきゃいけなかった?
病院や治療院を自分で探しに行ったりしていました。あと、特に機材もそうです。自分で調達していました。トップレベルの機材を提供してもらえるという体制も一気に進みました。サイエンスチームがコーディネートしてくれる空力テストなどもそれまで私はやったことがなかったですし。
Q:強化に乗り出した感を強く感じられた?
自転車のトラック競技の強化が一気に動いたっていうのを強く感じました。リオからの変化を、その後の4年間でとても感じて。練習以外のことを何も考えなくていいようになって。練習自体もコーチがマネジメントしてくれますし、他のケアとか、機材とか、レースに向けてのコンディショニングづくりとかも。機材もどんどん整備されていって、何を使うのが自分にとって良いのかというようなことも、サイエンスチームが提言してくれて、良い意味で言われたままのことをやっていけば良い状況になったので、それはそれは心強かったです。気になることがあったら、それを伝えると対応してもらえたりとか。とにかくトレーニングのことだけを考える。それしか考えなくてよくなったのは、とてもおおきかったです。
Q:ミゲル(ディレクター)が来たのは2018年なんですが、それぐらいから加速した感じなんですかね?
はい。2018年には短距離強化は始まっていましたけど、中距離はふんわりした感じでやっていました。イアン・コーチが来て、一気に加速しました。初めてポジションのセッティングの専門家によるレクチャーを受けたり。初めて経験することばかりでした。
Q:それはサイエンスチームが関わったり?
そうですね。ようやくレンさんをはじめとするサイエンスチームと。自転車競技の本家、イギリスに行って、本格的な空力テストを受けたりもしました。
Q:イギリスで実施された風洞実験には妃智さんも行かれたんですか?
行かせてもらいました。風洞実験を行って、ポジションをつくったり。本格的に強化が始まったという空気を肌で感じました。ポジションも今までと大きく変わりました。
Q:それはいいパフォーマンスを出すって意味では、相当プラスにはなったっていう捉え方なんですかね?
そうですね。2018年の時とオリンピックの時の私を比較すると、パフォーマンスのレベルが格段に違うと感じてますし。この4年間、特にラストの2年間で強化は一気に加速したと思っています。
Q:HPCJCにはいろんな機能があると思うんですけど、どこの機能が一番、妃智さんにいい影響を与えたとか、あったりはしますか?
どこが一番っていうのは難しいです。印象深いのは高酸素トレーニングかなぁ。あのトレーニングは私と相性が良いと感じたので。あと、風洞実験のポジションも。私、こっち(写真上)じゃなくて、こっち(写真下)のほうがよかったんですけども、実際、はるかにこっち(写真上)のほうがいいってことが数値で分かったので、このポジションで長く走り続けられるようなトレーニングを始めました。そこが分かったのは大きかったなと思います。
Q:感覚的にいいと思っていたものが、客観的にも証明された?
はい。確かに空力はいいけど、でも、しんどくて持てないから、こっち(写真下)を持っていたけど、数値でこっち(写真上)がいいってことが証明されて。クレイグ・コーチにもこれ(写真上)で乗るように言われて。そこから、とにかくこれ(写真上)をずっと長くできるように練習をやってきました。そういったことは、以前感覚で乗っていた中では分からなかったことでしたが、それが分かるようになって、そこもパフォーマンスアップに繋がったと思います。
Q:HPCJCがサイエンス、データを重視してるところの恩恵っていうか、効果っていうことですよね?
そうですね。高酸素トレーニングも結局はサイエンス的な科学スポーツ的トレーニングなので。そういうところがあったからこそ、自分が強くなることができたんだと思います。
Q:この前、脇本選手にインタビューする機会があったんですけど、HPCJCができる前後を彼も知ってる選手なので、その違いみたいなことをお伺いした時に、まさに同じようなことをおっしゃっていましたね。本当にパフォーマンスに、練習だけに専念できるっていうか、機材を用意したりとか、何食べなきゃいけないかみたいなこととか、そういうの今まで全部自分でやんなきゃいけなかったのに、そういうのがなくなって、本当に恵まれた環境だと。
本当にありがたい環境だと思います。栄養士さんもいてくれて、練習中に補食が常にテーブルに置いてある。もう今は普通の光景にはなっていますけど、以前はそれもなかったので、自分でバナナ持っていったり、ジェル持ってったり、とにかく全部自分で用意しなきゃいけなかった。その頃と比べると、そういったところもすごくありがたいです。
Q:僕が初めてトレーニングを見学するためにトラックに行った時に、そこにベッドがあって、終わってすぐケアしてもらえる環境を見て、選手としてはとってもいい環境なんだろうなって思いましたもん。
そうですね。他にも、イタリア・フランスに遠征に行った時に、落車して手首を痛めちゃったんです。その時、私は捻挫だと思っていて、とりあえず固定して帰国して、まずメディカル・スタッフの井上さんに診てもらいました。以前だったら病院にも行ってなかったんですけど、その時に連携している先生もいて、超音波で診てもらうことになりました。そしたら、骨折してるかもしれないので、病院で詳しく診てもらったほうが良いと言われて、結果骨折をしていました。
Q:そこまで全部調整してもらって。
病院と連携してるっていうのが大きくて。大仁行って、レントゲン写真をすぐに撮ってもらったら、これはちょっと嫌なところが骨折している可能性あるから、とうことで、次は順天堂大学病院へ。そこで、微妙に嫌なところが骨折していることが分かって。
Q:これまでも折れていたことはあったかもしれないってことですね。
はい。何か心配なことがあったら、すぐにメディカルチームに診てもらえて、ケガなども早期発見してもらえるとか。そういったところもHPCJCならではだと思います。病院に行かなくてもいいと思うけど、とりあえずケガをしたから診てもらおうとか、その後のアフターケアまでHPCJCで診てもらえます。そういうことができるのもすごく有難いなと思います。
(月曜日に続きます)